NPO法人 ホスピスのこころ研究所

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コラム「前野宏のホスピスのこころ」~第2回~

第2回 「人生回診」

 

私は札幌南徳洲会病院緩和ケア病棟が開設された2003年12月から毎週金曜の午前中病棟回診を行っています。午前9時半に医師達が集まり、入院中の患者さんの状態を主治医よりプレゼンしてもらいます。その場には看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、臨床宗教師などが加わることもあります。他院からの研修の医師や看護師が加わることも少なくありません。その際、治療やケアの方針についてちょっとしたディスカッションがなされます。各医師達は毎朝、病棟の申し送りで受け持ち以外の患者さんの情報を大体聞いてはいますが、医師の立場からのディスカッションをすることは意味のあることなのです。病棟が満床であれば小一時間かけて18人のプレゼンが終わります。その後、全員で患者さんをおひとりおひとり回ります。

スタッフの人数は少ない時は4人くらい、多い時には10人近くになることもありますが、全員がニトリ家具で1000円くらいで売っている折りたたみの小さなパイプ椅子を持参して、患者さんの周りに車座になって座るのです。初めての方が見るとちょっと異様な光景かもしれません。

                 

この「回診」は普通の病院の回診とはちょっと異なります。ある緩和ケア医師はこの回診を「生活回診」と呼んでいると言っていました。なるほどなと思ったのですが、私はちょっと違うなと思いました。それではなんと呼ぶのがふさわしいだろうかと考えたところ、「人生回診」が良いかなと思ったのです。患者さんのお体の具合はどうか、どのようなことを思っているか、困っていることは何か、今後のことをどう考えているか、などなど、まさにそれは患者さんが残された(おそらく余り長くはないであろう)人生をどのように過ごすかを患者さんと共に考えるひとときだからなのです。なかなか良いネーミングだと気に入っています。

 ホスピスのこころ研究所 理事長 前野 宏

コラム「前野宏のホスピスのこころ」~第1回~

第1回 「なぜ今『ホスピスのこころ』なのか」

 

NPO法人「ホスピスのこころ研究所」ホームページにようこそ。そして、このコラムをお読みくださり、感謝致します。

「ホスピスのこころ」とはホスピス緩和ケアの歴史の中で、大切にしてきた思想や考え方、哲学を意味しています。近代ホスピスは1967年にイギリスでスタートしました。その後、緩和ケアという名称に置き換わり、医療の一分野として位置づけられるに至りました。この間、緩和ケアにおいて客観的根拠(evidence)が尊重されるようになり、「こころ」といった客観的な評価がしにくい事柄は軽んじられる傾向が見られるようになりました。しかしながら、客観化出来ないことに意味がないかと言ったらそうではありません。いやむしろ、私はそういったことにこそ重要なことが含まれており、真理が存在すると考えています。

「こころ」といった客観化出来ないことは「ことば」によって伝えてゆくしかありません。ホスピス緩和ケアの歴史を築き上げ、育んできた先達の「ことば」を拾い集め、きちっと残してゆく作業によってしか「ホスピスのこころ」を伝承してゆくことはできないと考え、当NPO法人を創立することにしました。

どうかこの小さなNPO法人の地味なあゆみにご注目頂き、ご支援頂ければ幸いです。

なお、このコラムでは、私の経験を基に「ホスピスのこころ」について書いて参りたいと思います。一月に数回更新したいと考えておりますのでお読み頂ければ幸いです。

 

ホスピスのこころ研究所 理事長 前野 宏

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