NPO法人 ホスピスのこころ研究所

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前野宏のMind and Heart 第2回

コラム Mind and Heart 第2回

「村上明子さんのインタビュー   -その1-『在宅ホスピスとの出会い』」

 

札幌在住のプロのピアニスト村上明子さんは当グループ(札幌南徳洲会病院、ホームケアクリニック札幌、緩和ケア訪問看護ステーション札幌)と大変関わりの深い方です。2021年9月から毎週行われてきた「明子さんのピアノタイム」が2023年6月に終了しました。村上さんは私達の理念である「ホスピスのこころ」に共感され、音楽を通して、当グループに大変貢献して下さいました。彼女へのインタビューを3回にわたってご紹介します。まず、第1回は彼女と私達との出会いと在宅ホスピスとの関わりについてです。

 

前野:2017年にアンサンブルグループ奏楽のメンバーとしてホームホスピスコンサート(プロの演奏家が在宅ホスピスを受けている患者さんのお宅に伺って演奏させて頂くミニコンサート)で、Hさん宅で演奏して頂いたのが最初でしたね。その時の思いではいかがでしょうか。

 

村上:施設などでの経験はありましたが、終末期の患者さんの前で演奏するのは初めての経験で、正直気持ちの置き所が分からなかったです。(写真)私はピアノの方を向いていて、患者さんの顔を見る余裕は無かったので、むしろそれは助かったと思います。その時にHさんのリクエストでショパンのノクターン(遺作)を演奏しました。

Hさん宅でのホームホスピスコンサート

(ピアノを弾いているのが村上さん)

前野:その後、私は村上さんが演奏するモーツアルトのピアノ協奏曲を聴いて、個人的にファンになってしまったのですが、そういったご縁があり、2020年2月に村上さんのお祖母様が末期がんになられ、最期まで自宅で過ごしたいということで、私達のクリニックに依頼がありました。そして私が主治医になり、自宅でお看取りさせて頂きました。1ヶ月という短い関わりでしたが、毎回訪問診療のたびに村上さんがいて下さり、お祖母様のご自宅にあるピアノで演奏もして頂きました。(それを「グリコのおまけ」と名付けさせて頂きましたね)

 

村上:がんで余命が1ヶ月と聞いて、悲しかったのですが、前野先生達がいつもされているお仕事を近くで見ることができるという機会を得ることができて、おばあちゃんが与えてくれた最後のご褒美だったような気がします。

 

前野:私も(毎回村上さんの演奏を聴かせて頂き)得をしました。(笑い)

 

村上:ホームホスピスコンサートの意味がここで分かりました。特別だけれど特別ではなかった。今私が病院でやっている「ピアノタイム」は特別なことではなく、日常的な事として行っています。患者さんやご家族の皆さんの空間を一緒に楽しむことが出来たのが良かったと思います。Hさんの時にはまだそういうことが分からず、特別な感じとして演奏していました。

 

前野:音楽の力みたいなものを感じましたか。

 

村上:私がピアノを弾いていると、ベッドサイドに先生がいて、おばあちゃんの呼吸が音楽に合わせて変わっていったと教えてくださいました。

 

前野:あの時もショパン(遺作)でしたね。あの時、お祖母様は「もうおしまいなんですね。」と言われましたね。それから眠るように意識が低下していきました。村上さんのピアノがお祖母様の魂に届いた感じがしました。そして、それから3日後にご自宅でお亡くなりになりました。その翌年、病院が新築移転された時にそのお祖母様の想い出のピアノを地域緩和ケアセンタールイカに寄贈してくださいました。本当に感謝しております。