NPO法人 ホスピスのこころ研究所

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コラム「前野宏のホスピスのこころ」~第13回~

『ホスピスのこころと中村哲先生』

 

 2019年12月4日、アフガニスタンで活動されている中村哲先生が

凶弾に倒れたというニュースが突然飛び込んできました。

つらく悲しいニュースでした。ただ、私のこころのどこかで、

いつかこの日が来てしまうのではないかという心配があったのも事実です。

 

 多くの方は中村哲先生の事をご存じだと思いますが、少しだけ中村先生のご紹介をしましょう。彼は、福岡出身で九州大学医学部を卒業され、海外医療協力のためにパキスタンのペシャワールで長年活動されました。その後、アフガニスタンに拠点を移して活動されましたが、「苦しんでいるアフガニスタンの人々を救うためには医療より水が必要」と考え、現地で井戸を掘ったり、用水路を作ったりする事業を手がけました。中村先生の活動は35年近く続き、「マルワリード(真珠)」と呼ばれる用水路の総延長は25kmに及び、現在では約1万6500ヘクタールの砂漠が緑豊かな農地に変えられ、約60万人の人が恩恵を受けていると言われています。日本人以上にアフガニスタン国民に愛されている方でした。

 

 彼は常に現地に赴き、苦しみ、もだえている人々の目線で考え、行動してきました。それはまさに「ホスピスのこころ」そのものです。札幌南徳洲会病院の小冊子「ホスピスのこころを大切にする病院」の中に、中村先生の一文を載せていますので、ご紹介しましょう。

 

 「私たちの事業は、本当に、もう本当にいろんな事の連続でしたが、いつも一貫して、人々と共にあったと思います。上からの目線で、将棋の駒でも指すように、政治情勢がどうだとか、世界戦略がどうだなどと思ったことはない。それよりも下々の人と共に揺れながら生きてきた。こういう話をしますと、皆、暗くて深刻で悲惨な表情かというと、案外そうでもないのです。

 

 向こうから戻ってきて気になるのは、たらふく食っている日本人の方が暗い顔をしている。しかも言葉は不平不満の羅列です。これは何なのだ、と思います。

 

 どうも人間というのは持てば持つほど不安になって顔が暗くなるらしい。何も持たない人の楽天性というのはあるのです。この子達にしても何日かご飯が食べられないと飢えて死ぬか、病気になって死んでしまう状況に置かれてしまいます。それでもやはり明るい。

 

 私たちは援助というと、銭がある者が、貧しい哀れな人を助けるという考えになりがちですが、そうではなくて、18年間を振り返ってみますと、本当は助けるつもりで助かってきたのは自分たちではないかと思います。」(「ほんとうのアフガニスタン」より)

 

 中村先生の残された「ホスピスのこころ」の遺志を私たちが受け継がなければならないと心から思います。

ホスピスのこころ研究所 理事長 前野 宏