前野宏のMind and Heart 第8回
「病者を支える音楽」
私が担当しています「ホスピスのこころのコラム」が2023年11月を最後に中断しておりました。申し訳ありません。当グループが大切にしている「ホスピスのこころ」についてまた筆を執らせて(ワープロを打たせて)頂きたいと思います。
4月29日に、札幌南徳洲会病院ロビーで当NPOの講演会を開催しました。そのタイトルが上記です。講師の村雲雅志さん(以下、私が普段彼を呼んでいるように村雲君と書かせて頂きます)は私と北大医学部の同級生です。彼は泌尿器科医として働きながら、リコーダー演奏、声楽など多彩な音楽活動を続けておられますが、文字通り音楽が彼の人生の大切な伴奏者であると思います。
中学生時代の同級生だった奥様と学生結婚され、4人の子供に恵まれた順風満帆の人生のように思われたのですが、奥様が乳がんにかかり、治療の甲斐も無く残念ながら亡くなりました。奥様のたっての希望で建設中であった新居への二人そろっての入居はかないませんでした。村雲君がその新居に引っ越しをした直後、今度は彼の体に異変が起こります。急な腹痛でご自分の働いている病院に救急車で運ばれたところ、診断は直腸がんによる腸閉塞でした。しかも肝転移がすでに起こっている進行がんの状態。それ以来、彼は何度かの手術と化学療法を受けながら、現在に至っています。村雲君の身の上に相次いで起こった悲劇を知り、私は言葉を失いました。それでも、一昨年彼の新居を妻と一緒に訪問した時に彼の元気そうな笑顔に触れ、安堵したことを覚えております。
村雲君は現在、釧路の病院で泌尿器科医として働いているのですが、実は私も現在定期的に釧路の病院で勤務しています。時々彼に会いますが、最愛の奥様を失い、ご自分も大病の中にある人と思えないくらい淡々と明るく生きておられる彼を見るにつけ、彼を支えているものは何なのかを知りたいと思いました。今回の講演会ではそのことを聞く者に伝えて頂きました。
彼の講演スタイルは大変ユニークで、彼曰く「さだまさしスタイル」だそうですが、少しお話ししてリコーダー演奏、またお話しして演奏を繰り返しました。お話しも演奏も素晴らしかったのですが、その中で彼を支えてきたのは最愛の奥様と音楽であるということが分かりました。
彼の最後のメッセージは「私の妻は今も私の心の中で生き続けています。願わくは、私も皆さんの中に良い思い出として生き続けてくれることを願っています。」というものでした。
講演会の後半では村雲君の大学の同級生で、現在北大小児科教授の真部淳君のピアノ演奏。そして、真部君のピアノ伴奏で村雲君が奥さんの思い出の曲という日本の歌曲を歌ってくださいました。ちょっと感極まった感もありましたが、彼の素敵なテナーの声は聴く者の心に染み渡ったのです。
想像もできない困難のただ中にあって、支えるものがあることにより、このように素晴らしい人生を送ることができる。参加した方々のお一人お一人に大切なメッセージを届けることができた講演会でした。
ホスピスのこころ研究所 理事長 前野 宏