コラム「前野宏のホスピスのこころ」~第20回~
『感性を磨くこと』
前回のコラムで、「感性」とは「気づき」「感動」「行動」の三つの要素があることをお話ししました。それが完結して「感性」が「完成」するのです。それでは、どうすれば良い感性を身につけることができるのでしょうか。今日はそのことを考えてみたいと思います。
「感性」の三要素「気づき」「感動」「行動」には順番があります。全てのスタートはまず「気づくこと」です。ちょっとした患者さんの変化に気づくことから全てが始まります。しかし、気づきのセンサーは人それぞれに違います。生まれつきという部分もあるかもしれませんが、センサーが最大限機能するためには、「今、この瞬間」に集中できるということが最も大切です。ところが、「今、この瞬間」のセンサーの働きは、私たちの精神状態に大きく左右されます。そして、私たちの精神状態は過去や未来に大きく左右されます。
私たちの現在の気持ちは過去のことにとても影響を受けます。朝、出勤する前に奥さんとちょっとした口げんかをしたとします。そのいやな気持ちを引きずったまま出勤して、患者さんとお話をしていると患者さんが話していることばに集中できなかったりするかもしれません。
また、逆に私たちの現在の気持ちは将来のことにも左右されます。今日の午後、気が乗らない会議に出なければならないということがあるとすると、やはり、患者さんのことばに集中できず、ちょっとした患者さんの気持ちの変化に寄り添えないことになるかもしれません。「今、この瞬間」に集中するということは、簡単なことではありません。
私はキリスト者ですので、患者さんと話す前に、こころの中で「患者さんのことばに集中できますように。」と小さなお祈りをしてから患者さんのベッドサイドに臨むようにしています。一息深呼吸をするだけでも気持ちがリセットされて、集中できるようになります。
シシリー・ソンダース先生は「患者のケアの秘訣は、患者を好きになることだ。」と言っています。「好きになる」とは「関心を持つ」と言い換えることも出来ると思います。相手のことに関心を持つように心がけ、「今、この瞬間」に集中するように努めることが大切です。
「感性を磨く」ためのトレーニングも必要だと思います。今はやりの瞑想、黙想や「マインドフルネス」という方法もあると思いますが、純粋に好きなことに集中する。例えば、好きな音楽を一生懸命に聴く、好きな映画を集中して観るといったことも、「感性を磨く」ためのトレーニングになると思います。
ホスピスのこころ研究所 理事長 前野 宏