NPO法人 ホスピスのこころ研究所

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コラム「前野宏のホスピスのこころ」~第3回~

「なぜ座るか?」

 

前回のコラムで「人生回診」のことを書きました。その時に回診するスタッフは各自がニトリの折りたたみ椅子を持参して患者さんの周りに車座に座るのだということを書きました。写真を見て頂くとその雰囲気が分かると思います。

一般的な病院の回診では医師達は患者さんのベッドサイドに立って行います。それでは、なぜ私たちは患者さんのベッドサイドに座るのでしょうか。

患者さんのベッドサイドに座る意味は二つあると思います。

一つは、私たちが座ることによって、患者さんと私たち医療者の目線の高さを一致させることです。私たちが立っていると医療者が患者さんを見下ろすことになります。そこには物理的に上下関係ができます。物理的な上下関係は心理的な上下関係につながります。つまり私たちが座ることは、患者さんと医療者が対等ですよ、というメッセージになります。

私たちが座る意味の二つ目は、私たちが患者さんのお話を伺うために時間をとりますよ、というメッセージをお伝えすることです。医療者が立っていると、暗黙のうちに患者さんに対して「僕たちは忙しい中ここにいるのです。」というメッセージを発してしまいます。そすると、患者さんは「先生は忙しいから、こんなつまらないことは言えないな。」と思ってしまい、言いたいことも飲み込んでしまうかもしれません(ちょっと図々しい方であれば、そんなことお構いなく言えるかもしれませんが)。私たちが座ることは、「あなたのために時間を取りますので、何でも言いたいことを言ってください。」というメッセージなのです。

ここで大切なのは、どうして私たちが座るのか、つまり座ることの目的です。それは、患者さんからお話しを伺うためなのです。前回にもお話ししましたが、患者さんのお体の具合はどうか、心配なことはないか、困っていることは何か、これからどのように過ごそうと思っているか、などなどどのようなことでも良いので伺うこと、それが私たちが座る目的です。そして、そこからケアが始まるのです。それはまさに患者さんお一人お一人に対するオーダーメードケアになります。

ホスピスのこころ研究所 理事長 前野 宏