NPO法人 ホスピスのこころ研究所

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コラム「前野宏のホスピスのこころ」~第21回~

『冗談で言ったことが実現しました』

 

このたび当NPOが企画編集した2冊の書籍が刊行されました。このホームページでもご案内しておりますが、「柏木哲夫とホスピスのこころ」と「シシリー・ソンダースとホスピスのこころ」の2冊です。これらの本は、すでにご案内致しました当NPO主催のシリーズ講演会「ホスピス緩和ケアの原点-ホスピスのこころ-を極める 柏木哲夫とシシリー・ソンダース(全6回)」を書籍化したものです。今回はこの企画にまつわるエピソード(裏話)をお話ししましょう。

 

今回のシリーズ講演会は、まず私(前野)が当NPOの顧問である柏木先生に提案しました。「柏木先生が今まで講演会で語られたこと、本に書かれたことのエッセンスをまとめて3回の講演会を開いて頂きたい。ホスピスケアにおいて柏木先生が最も大切だと思われる三つのキーワードを挙げて頂き、それぞれについてお話し頂きたいと思います。」柏木先生は「それはいいですね。是非、実現しましょう。そして、できればそれを書籍化しましょう。」と二つ返事でお引き受け頂きました。大変僭越ですが、私は長年柏木先生とお付き合いさせて頂いているので、今回の企画を柏木先生が喜んで下さることは大体分かっていましたし、それは予想通りの反応だったのです。本当にありがたいことです。

 

それで、私は我が国のホスピス緩和ケアの歴史を創られた柏木先生がホスピス緩和ケアの原点について語って頂くので、せっかくなので、おまけに世界のホスピス緩和ケアのルーツであるシシリー・ソンダース先生にも登場頂こうと考えました。しかし、誠に残念ながらソンダース先生は2005年に天国に戻られましたので、札幌に来て語って頂くことはかないません。それで、その代わりと言ってはなんなのですが、2017年にシシリー・ソンダースの論文を訳して2冊の本を出された愛知県がんセンターの小森先生に相談してみようと考えました。私は思いつくと行動が早いので、早速小森先生のご都合を伺い、2018年8月、暑い名古屋に向かいました。小森先生は初対面の私を快くお迎え下さいました。私が今回の企画のことをお伝えすると、小森先生はすぐその場で(ほとんど考える間もなく)、「それじゃあ、柏木先生がお話になった後に私がシシリー・ソンダースのイタコとなって3回お話をしましょう。」(イタコとは死者の霊が乗り移って、死者の言葉を話す人のこと)私はまさに狐につままれた気持ちで、札幌に戻って来たのです。やや半信半疑ではありましたが、小森先生を信じて準備を進めました。そして、とうとう1年以上にわたる6回シリーズの講演会が実現したのです。

         

小森先生は2回目の講演会で初登場されたのですが、その冒頭に出たのがタイトルの言葉です。「私が冗談で言ったことが実現しました。」その言葉を聞いた時、私は大変面食らったのですが、初めて小森先生にお会いしてから2年が経ちますが、小森先生という方については、さらに面食らうことばかりで、ますます謎が深まっております。恐らくその謎は永遠に解けないような気がしています。

ホスピスのこころ研究所 理事長 前野 宏